五家荘テント泊 – 1日目

 五家荘下見をした翌年の夏のある日、私は単独でテントとザイルを持ち込みその地に立っていました。今日から2日3日のテント泊の旅です。

 ここは九州脊梁の中心地。切り立ったV字谷が多く、渓に降りたてても遡上するのには、ある程度の経験と備えが必要です。

530ce8968ff65b9d1cfa230fc185def7 標高千メートルラインに位置しており、山岳特有の変わりやすい気候。単独の釣行にはリスクが高い場所ですが、日本屈指の大型魚が釣れる釣り場として名を知られるうえ、ここに棲むマダラと呼ばれる独特の派手な模様を持ったヤマメを釣りたくて、全国から多くの釣りキチが訪れます。

<到着~釣り場へ>

 軽ワゴンに荷物を積み込み、二本杉峠を越えて現地に到着したのは午後3時を回っていました。暗くなっては身動きが不自由になるので、早々と野宿の用意をします。平坦な場所を見つけテントを張り30分ほどで大まかな支度を終えました
 まだ日が高く、明日の釣りに備えて下見を兼ねてちょいとこれから試し釣りです。テントから約30分の場所、川辺川の最上流、樅木川にザイルで体を固定し渓に降り立ちました。

130714_06<マダラはどこに>

 五家荘と言えば釣り天国。どれだけたくさん魚が釣れるか知れないぞという期待を抱いて谷を遡上しますが、なかなか魚はいません。途中、多少の無理をしながら渓を上り、フライを水面にそっと浮かべますが見向きもしてくれないのです。

「夏ヤマメ、一里一匹」といわれ、特にこの時期は釣りにくいといいますが、こんな渓を一里も歩いたら体がもちません。もともと高いところと泳ぎは苦手な人間。山登りも、シャワークライミングも興味ありません。ただ魚がいるから行ってるだけなんです。

<臆病風に吹かれて>
 「そろそろ帰ろうかな?」と何度も自問しながらも少しずつ前に進む。時折反応してくれるのは、ちびっこヤマメのみ。そうしながら約1時間もあるいていました。

 夕方になり日が沈みかけると、そこら一帯は先ほどの明るく賑やかな雰囲気が一変し、渓に吹き下ろす風は冷たく、ネガティブなムードに包まれてきます。こんなときは経験上ろくなことはありません。「さっさと戻って美味いもんでも作って食べよ」。元来臆病者の私は躊躇することなく「撤退」を決定。早々と仕掛けをたたみそそくさと渓を引き返しテントに戻りました。

<居酒屋五家荘>

 この一帯は夏といえども夜になると涼しく、上着を着こんで支度にとりかかります。テントの外に特設会場。クーラーボックスの上につまみ類。

 携帯用チェアに腰かけて先ずは缶ビールを「ブシュ!」っと開けます。近くに店はないので飲食物はゆうに3人分を持参しています。今日は飲み放題、食い放題!・・

 やがて日が暮れてきたのでLEDランタン2つをテントの周りの木に吊るします。日が暮れると木陰のテントには月明かりも届かなくなり、みるみるうちに周囲は漆黒の闇につつまれ、もはや頼りになるのはこのLEDライトのみです。軽く小さくて玉切れはしないし、ホワイトガソリンのような面倒もない。電池を充電しておけば二日間の野営が可能。冷たい光の色は好きじゃないけれどそれを上回る魅力があります。最近はもっぱらいろんな種類のものを買って試しています。男はみんなライトが大好きです!

 食べ物の香りに誘われて近づいてきたのでしょうか、周囲の藪にごそごそと獣がやってきます。おそらく狸か猪でしょう。九州には熊はいませんから、まったく怖くはありません。その夜は、持ち込んだドライジンにたっぷりのレモンを加え、トニックウォーターで割って飲みながら、一人料理を囲んで宴会をしました。寒くても酒の効能で気持ちは暖かです。理屈なしに贅沢な旅を満喫しました。

 

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