残暑が厳しい中、北九州市の響灘に浮かぶ海釣り公園で障害者を対象とした釣り大会が開催されました。
介助の専門学校生、介護施設の先生、そして私たち日本釣振興会のスタッフと保護者を含め109人もの方が参加するイベントです。
私はこのイベントに対し、ある疑問を持っていました。「自分の力で釣りが出来ないのに無理に釣りの指導をする意義があるのか、指導者の自己満足じゃないのか・・」と。
大会当日の朝、全員が集合し釣りのマナーや釣り方、安全の説明をした後、いよいよ釣りを開始しました。小アジのサビキ釣りです。
まもなくすると小アジが次と竿を曲げはじめました。子どもたちと保護者のお父さんお母さんも大喜びで一安心。
その時でした。「お母さん、釣りって楽しいね」。
小さな女の子の声が聞こえました。
「そうか・・」私はその言葉が腑に落ちて、持ってた疑問がたちまち消えてなくなりました。
この子たちは釣りを覚えるために来たのじゃない。ただ釣りを楽しみに来たのだ。こんな仕事をしていると理屈ばかりで、シンプルに考えることが出来なくなっていました。
釣りの技術指導などと思いあがっていました。釣りの楽しさを味わってもらえばいいんです。
このちっちゃなアジは釣り慣れた大人達にはただの雑魚であっても、この子たちにとってはとても大きな魚なのだと。
いつの間にかそこら中で釣りをしている常連のおじさんや、始めは非協力的でぶっきらぼうだった強面の兄さん達、皆が釣りを止めて集まって子どもたちの釣りを手伝ってくれました。
わずかな時間で人と人とを結びつけてくれる。こんな姿を見ていると、釣りはいいなと思います。
その夜はお母さんたちの手により、たくさんの小アジたちが晩ご飯に登場して、さぞかし賑やかな食卓になったことでしょう。