天国に一番近い川

 私にとってかけがえのない親友が亡くなり一年が経過しました。

 知り合ったのは20年以上も昔。 同じアパートの住人となり、お互い釣り好きなことから親しくなり磯釣りに行ったのがきっかけです。
 その後家族ぐるみの付き合いが始まり、沢山の思い出をつくってきました。 彼の名前は佐々木さん。吉野ヶ里遺跡の建立にも携わった腕利きの大工でした。

 人の悪口は言わず、曲がった事を嫌い、ずるいところがない、おとなしくて遠慮がち、誠実で頭が低く律儀。そんな人柄でした。20年以上一度も喧嘩をしたことがない本当に気の合う友人でした。 

 連絡を受けて駆けつけた病院で会ったときのことを忘れられません。
「治ったら飯田高原にキャンプに行こうや、そこに流れる川でヤマメ釣り教えちゃるけん」と誘いました。
「ありがとう・・」彼は黙って頷きました。しかしその願いは叶うことはありませんでした。今考えると彼はそれがとても難しいことだと知っていたのかもしれません。

 今日はあの日の約束のキャンプに行きます。
 佐々木さんと久しぶりの二人旅。いつもこうして二人でグレ、チヌ、アジ、アオリイカ、メバルを追いかけていました。
 行先は大分県玖珠郡九重町飯田高原「鉄山キャンプ場」。敷地の中に渓流が流れる自然豊かなキャンプ場です。

 あの日以降毎日のように彼のことを思い出し傷はいっこうに癒えませんので、今日は彼と気の済むまで遊び、話をしようと思います。

 3日も続いた菜種梅雨も持ち直し全国的に小春日和。桜の開花も始まりましたが、飯田高原は標高1000メートルですからまだ冬の気温。
 山の天気は変わりやすいし、日が暮れて寒くなれば車中でやれば良し。朝9時に出発し途中食品の買い出しを済ませます。

 九州自動車道を南下、鳥栖JCTより大分自動車道に入り九重インターを降ります。

 飯田高原方面に向かうには複数のルートがあります。代表的なルートは九酔渓を通るルートと四季彩ロードを通る道です。

 九酔渓のルートはヘアピンカーブが多く急勾配の道ですが断崖からのダイナミックな景色が楽しめます。

 いっぽう、四季彩ロードは緩やかで整った道で雄大な久住連山を眺めながらドライブができます。

 往路は四季彩ロードを通ることにしました。

 九重インターから約1時間の道のり。 山肌の残雪が美しいコントラストを見せてくれました。



 長者原のタデ原湿原に到着。ここは年に数回訪れる場所です。

 長者原登山口の駐車場に車を停め、登山道を歩きます。

 今日は青空が広がり空気が澄んでいましたので良い写真が撮れました。佐々木さんもきっと喜んでるでしょう。

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 タデ原湿原は季節により異なった景観を見せてくれます。

 約30分の行程で遊歩道を一周してきました。 

 雪でツルツル滑るわ、スニーカーがずぶ濡れになるわ大変な目に合いました。

 タデ原湿原から約15分。途中道路工事中で通行止めでちょっと焦りましたが、目的地の「鉄山キャンプ場」に無事到着しました。
 ソロキャンプで1名の先客。私は一番奥の渓流から少し離れた地点に駐車。
 夏は渓のそばは涼しいのですが、今の時期は水の流れる音がうるさいので、このあたりで一日を過ごすことにします。 

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 このような森の中のキャンプ場はなかなかないのでキャンプ好きの人の穴場となっています。

 区画はなく、自由に車を停めてキャンプができます。

 まだ時間が早いので鳴子川にヤマメを釣りに行ってきます。

 といっても鳴子川とは数メートル先。敷地内を流れる川です。

 この川はとてもヤマメが多く棲んでいます。放流がこれよりずっと下流で行われていますが、数か所の堰堤があり遡上はできません。

 このあたりのヤマメは数が少ないものの天然ものです。

 フライフィッシングで釣り開始。エサいらずなのでいつでも釣りができます。

 

 とでも美しいヤマメが出てきました。酒のあてが確保できましたので釣りタイム終了。



 宴会スタート。

「マルショク光岡店」で刺身を購入。朝早かったのでまだ陳列されていなかったのですが、快く盛り合わせしてくれました。

 



 写真の向こうでも食ってます。佐賀関の坂ノ市防波堤でアジ釣りの際、ちゃんこ鍋を食った時の写真ですな。

「あっ!醤油がねえし」「ワサビもないやん」

 しかたないのでかつお醤油でいただくことにします。



 お店の人が気前よく入れてくれたヒラス(ヒラマサ)のトロ。

 「うま過ぎやろ!」

 これまで食べた刺身の中で、一番美味しいと思いました。

 



 約1時間でいい気持ちになり。二次会の支度にとりかかります。サラダを盛り合わせ。

 三男の嫁からいただいた椎茸。一番苦手な食べ物でしたが、今日は勇気を出して一枚用意。軽く塩をしていただきます。

 二次会の支度完了。ミニ七輪での焼き物です。牛、豚、鳥、魚、ソーセージ、サラダ、ほか。ワインを開けます。



 「献杯!」

 ダラダラと今日は飲み明かそうかね。

 メインディッシュのヤマメ。

 美味く焼こうと注意をしてたのに飲みすぎたせいか気づくと真っ黒な姿に・・。

「初めて一緒に釣りに行ったのは大分県の蒲江。鶴見大島の平田バエに上がったんよ。初挑戦でようやく釣ったグレの引きは強かったやろ、あのかなりのビッグウェーブやったばいね、それからずっとグレ釣りにハマるきっかけとなったんよな」。「翌日は横島のラクダ。小さかったけどよう釣れたねえ」。



 「対馬のチヌ釣り覚えとる?浅生湾は水が澄んでて、アメンボウかいそうなほど静かな海やったな!あん時は楽しかった。帰りは天気が崩れて飛行機が飛ばす慌ててフェリーで帰ったんよね。

 そうそう、その日はアイルトンセナが事故で亡くなったんやった。フェリーの待合室でニュース見てビックリしたよな」。調べてみたら1994年5月1日やったよ・・。

 イカ釣りはよくやったねえ。関門じゃコウイカをエギでたくさん釣った。家族でよく通ったよな。途中餃子の王将で腹ごしらえしてさ、寒いのに遅くまで頑張った。 ミズイカは波津や脇田に通った。ルアーのメバルもやってきた。 アジは岩屋や若松、佐賀関に通ったな。いつも家族に食べさせる魚の数を数えながら釣りしてたな。

 他にも念願の男女群島で帆立岩を見て、感動したもんね。 鶴見の先の瀬はよう釣れとったな、アジ釣りは岩屋の地磯によく通ったよな。ミズイカ釣りおもしろかったね・・。

 あげればきりがないほどたくさん釣りやバーベキューなどやってきました。あのころスマホがあればたくさん写真があったのにあまり記録が残っていなくて残念です。

 さて、夕方になると吐く息がこんなになりました。風はほとんど無いものの寒くてヒーターを出しましたが部分的でほとんど効果なし。日暮れとともに屋外での宴会は終わりです。
 ・・こんなときカーサイドタープがあればいいなぁ。

 三次会は車中で実施。酔っているとはいえ七輪を車内に持ち込むほどアホじゃありません。

 佐々木さん、まだまだそっちには行きませんよ。

 渇きものをつまみに再スタート。ダウンのシュラフに潜って飲んでたら、いつの間にか朝まで熟睡しました。

 早朝目覚めて車内の気温を見ると1℃。おそらく外は氷点下5~10℃くらいでしょう。ダウンのシュラフ一枚でまったく寒さは感じませんでした。

 フロントガラスの結露が凍り付いています。

 しばらくテレビ見たり、持ち込んだギター弾いたりでゆっくりした後、朝食。といっても昨日の残りとカップ麺しかありません。運転するので朝からオールフリー・・。

 これにてキャンプ終了。快適な車中泊ができました。

 

 帰りは九酔渓経由で九酔渓温泉に入りました。

 たっぷり時間を使いいい気持ちで帰路につきます。九重インターから東九州自動車道経由で帰ろうと思いましたが、なんとなく九州自動車道経由にしたことがハズレ。事故による渋滞で90分のロス。腹立つけど今日はイライラせず気持ちよく帰ります。

 帰りにお墓に寄って送り届けてきました。

「おもしろかったね、また行こうかね」。

 飯田高原の夜、星が手が届きそうなくらい近くで輝いていました。

 

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