青空に続く道

 私が氏と最初に会ったのは4年ほど前の夏の日。

 当時ボランティア活動で子供達に魚釣りを教える活動をしていたのですが、友人である大分県九重町にある管理釣り場の親父に、養鱒業を営んでいる氏を紹介してもらったのがきっかけでした。

 約束の日、トラックから白いゴム長を履いた氏が出てきて、笑顔で「ウチは年間20万匹は出しちゅるき全然問題ないっすよ!ニジマス以外もアユとかヤマメもおるよ」。

 コテコテの大分弁丸出しの飾り気ない人柄は初対面であってもすぐに打ち解け、その日から氏との付き合いが始まりました。

 清流野上川の上流は夏でも冷たい湧き水が出ていて、冷水を好むニジマスの生育に最適の場所に氏の養殖池があります。

 年に5回ほど福岡県内各地で行われるニジマス釣りのボランティア活動には、そこから氏が自慢の元気なニジマスを運んできてくれるようになりました。

 子供たちに喜んでもらおうと頼んでもない60cmはあろう特大のニジマスを惜しげも無く何匹も放流してくれた氏は、帰った後も心配で何度も電話をかけてきました。

 2019年8月6日、昨日九重町は台風8号の影響で朝から一時間で40mm以上というまとまった雨が降り続けました。

 湯布院にある彼の会社から養殖池がある九重町まで約20分。

 朝6時、養殖池が心配で奥さんと様子を見に行き、氏は突然帰らぬ人となりました。

 大雨の中なので奥さんには「お前は危ないからここで待ってろ」と促し杣道を伝って川に降りたそうです。時間が経っても帰ってこない夫の身を案じ奥さんが救急に電話をしたそうです。

 水嵩が1.2mも上がっている中、ウェーダーを履いて池の取水口に近づき事故に遭遇したのか、誤って川に転落したのか今となっては知る由もなく残念でなりませんが、30分後に発見された時は既に手遅れだったそうです。

 今日は貴方の旅立ちの日。とても沢山の人が会葬に訪れたのを見て、そんな気持ちは吹っ飛び、心から良かったねと呟きました。

 森林限界を過ぎ、緑に覆われた由布岳から続くハイウェイ。突き抜けるような青空に浮かぶ積乱雲に太陽光が透過して輝く彼方に氏は旅立ちました。

 氏が喜びを共有した数万人もの子供たちやその家族に代わり感謝の気持ちを伝えます。「ありがとうございました」。

 翌朝の朝刊に載っていたゴルフプレーヤーの活躍のゴシック記事の隅に氏の事が掲載されていました。

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